2020年9月1日火曜日

綾紋姫長朽木夢誌(あやもんひめながくちきむし)


そこは剣と魔法――じゃなくて、刀と『紋術』の飛び交う異世界だった。
丁度祖母のお葬式で紋付の喪服を着せられていた私は、何か勘違いされて馬鹿殿みたいな白粉(おしろい)小男に連れ去られる事になる。しかも気付いたら結婚させられてたんですけど!
え、理由は家紋…って、はぁ?うちはまるっきりド庶民なんですが何か?
冗談はその白粉顔だけにしろ。

家紋と血筋が組み合わさって不思議な力を生む世界。
これは、昔の日本に似た戦乱の世界に飛ばされた私、朽木綾子の長い長い夢であって欲しかった記録である。


「小説家になろう」でも投稿しています。
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【壱】 【弐】 【参】 【肆】 【伍】 【陸】 【漆】 【捌】 【玖】 【拾】
【拾壱】 【巣守隆康】 【拾弐】 【拾参】 【拾肆】 【拾伍】 【拾陸】
【拾漆】 【拾捌】 【拾玖】 【廿】 【廿壱】 【廿弐】 【廿参】 【廿肆】
【廿伍】 【廿陸】 【廿漆】

2020年5月1日金曜日

クロシェ・ニッティの編物魔法~かぎ針で小さな幸せを引っ掛けて~【目次】



剣と魔法の世界。

リストーム王国に生を受けたクロシェ・アルストル。
白い肌、赤毛に青みがかった緑色の瞳。
そばかすが気になるお年頃で酸っぱい果物を食べるのが日課。

そんな彼女は魔術師を輩出する名門アルストル家に生まれながら、魔力は沢山あるのに放出する能力が他人より弱い落ちこぼれ。
学園を卒業するその日に婚約者から婚約破棄されてしまう。
経歴に傷持ちとなった彼女をアルストル家は辺境ファスターの地、ニッティ家に嫁として出す事に決めた。

嫁入り道中、ひょんなことから前世を思い出した彼女。
義実家はクロシェを暖かく迎え入れてくれた。
結婚から始まる恋愛、クロシェは夫トール・ニッティと恋に落ちる。

日々の生活は慎ましいものだった。
屑魔石しか出なくなった枯れかけの鉱山、牧畜以外特産もない草と森だらけの豊かとは言えない領地。
義家族に恩返しをするためにも、彼女は前世から好きなかぎ針編みをしようと思い立つ。

ところが、夫の為に彼女が羊の毛糸で編んだものは不思議な魔法がかかっていたのだった。

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1.ほどけて切れた
2.その毛糸の先
3.足して繋がる
4.新たな運命
5.運ぶ馬車、転がる車輪
6.馬の蹄も高らかに

2020年4月25日土曜日

ちーとにゃんこの異世界日記【目次】




【あらすじ】

「吾輩は猫である」

その言葉と共に、神様の手違いで事故死してしまった元女子大生の主人公は異世界へと転生した。
しかし、お詫びとして神より授かったのは絶大な力と猫の外見だった。
神の呪い『にゃ〜語』に嘆きつつも、神にも愛されるケット・シーとして生まれ変わったニャンコ=コネコの笑いあり、涙あり? ふるもっふあり!! の冒険活劇が今始まる!


1にゃん  2にゃん  3にゃん  4にゃん  5にゃん  6にゃん  7にゃん  8にゃん

9にゃん 10にゃん 11にゃん 12にゃん 13にゃん 14にゃん 15にゃん 16にゃん

17にゃん 18にゃん 19にゃん 20にゃん 21にゃん 22にゃん 23にゃん 24にゃん

25にゃん 26にゃん 27にゃん 28にゃん 29にゃん 30にゃん 31にゃん 32にゃん

33にゃん 34にゃん 35にゃん 36にゃん 37にゃん 38にゃん 39にゃん 40にゃん

41にゃん 42にゃん 43にゃん 44にゃん 45にゃん 46にゃん 47にゃん 48にゃん

49にゃん 50にゃん 51にゃん 52にゃん 53にゃん 54にゃん 55にゃん 56にゃん

57にゃん 58にゃん 59にゃん 60にゃん 61にゃん 62にゃん 63にゃん 64にゃん

65にゃん 66にゃん 67にゃん 68にゃん 69にゃん 70にゃん 71にゃん 72にゃん

73にゃん 74にゃん 75にゃん 76にゃん 77にゃん 78にゃん 79にゃん 80にゃん

81にゃん 82にゃん 83にゃん 84にゃん 85にゃん 86にゃん 最終回にゃん

【あとがき】


〈番外編〉

ケット・シー喫茶奮闘記1

ケット・シー喫茶奮闘記2



エルマ坊ちゃんの大冒険!【1】



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2019年6月1日土曜日

緑茶仙女~Dryad of Green Tea~【目次】




イーランシェラ世界、イシュラエア王国建国間もない時代。
コルト家の次男であるユリウス・コルトは、難病に罹った主君である王子の為、王命により世界樹の葉を求めて聖地に向かった。

聖地への旅は艱難辛苦に満ちていた。
聖地に入ってからは魔獣に追われて彷徨い、「世界の割れ目」に落ちた挙句、精霊の地に迷い込んでしまう。
人間を嫌う精霊に翻弄され、人の世界にも戻れず絶体絶命。
そんな彼の前に現れたのは、見た事もない美しい緑の装束を着た麗しき精霊女王、ラエグリエル・アイヌリアス・べレグノルンであった。

【1】

2017年7月27日木曜日

拾壱

「長き道のさぞ行き疲れさせ給うなり。やがて湯の整いはべりたれば、づは御足おみあしを。」

お萬という女性は屋敷に入る階の所に私を座らせ、草履を脱がせて顔や手を手ぬぐいで拭いた後、足を洗ってくれた。
それが済むと、「さ、こなたに」と一つの部屋に通される。
そこでお茶と饅頭を出され、飲んでいると(ちなみに饅頭は甘味控え目でまあまあ美味しかった)、お湯が沸いたらしくお風呂に案内された。
着物を脱がされ、檜の香りのする部屋に入れられると、むわっとした蒸気が籠る。

サウナか。

丁度座れるように段差に作られている。

「しばしここにおはしまし給え。」

と言われたので、そのまま座って待つ。
汗が流れ始めた頃にお萬が出してくれて、大きな桶のある部屋に通された。

お萬とは別の女性が一人控えている。
背もたれのない木の椅子があり、そこに座らされた。
桶の中にはお湯がたくさん沸いており、お萬はそれを大きなひしゃくで掬うと私にかけていく。

サウナで出た汗が洗い流されて気持ちがいい。

別の女性が白い布包ぬのつつみを桶で濡らして体全体を拭ってくれた。
桶の水が白っぽく濁っていたので米ぬかか何かなんだろう。匂いもそれっぽいし。

髪も含めて洗い上げられると、風呂から上がる。
水気を拭かれた後は白い浴衣みたいな着物を着せられた。

湿った髪の毛に黄色い油のようなものを塗られ、目の細かい櫛でゆっくり丁寧に梳かれていく。
その気持ちよさに、私はつい、うとうとと寝入ってしまっていた。

この後、大変な事をされるとも知らずに。


***


「姫御前、姫御前」

優しく揺さぶられ、うっすらと目を開く。

「わっ!!?」

いきなりその顔でのドアップは心臓に悪いです、お萬さん。

おどろかせたもうたりや。これより御身の化粧けそうさせたまわらんとぞんじてこしたてまつりたりけるに。」

起きてみると、金襴のかいまき布団みたいなものに寝かされていた。
周りには数名、お萬と似たような恰好の女性がいて、かちゃかちゃと化粧道具らしきものや着物を用意している。

「さ、姫御前」

鏡の前に座るよう促され、覗き込んだ瞬間、私はあまりのショックに口をぱっかーんと開けた。

ままま、ま、眉が…私の眉が……!!

私の大事な大事な眉毛が、眠ってる間に綺麗さっぱり剃り落とされていた!

あまりの事にはわはわとムンク状態で放心する私を尻目に、お萬は化粧を始めようと白粉おしろいを手に――

はっ!?確か白粉おしろいって。

「ちょっと待った!」

それ、毒じゃないの?

毒、毒、と連呼する私。
お萬は白粉は毒じゃない、みたいな事を主張していたが、私は引かなかった。
言葉じゃ埒が明かないので、最終手段、筆談だ!と筆と紙を要求する。

多分平仮名片仮名はミミズののたうちまわったような字体だろうと思う。
文化的に書き言葉も通じて欲しいと祈りながらも、うろ覚えの漢文知識で『白粉是自鉛作也おしろいこれなまりよりつくるなり鉛是毒也なまりこれどくなり』などと適当に書くと、お萬は「男手おとこでそなえらるるか」と驚いて、果ては解読の為巣守隆康まで呼んでくる羽目に。

すったもんだの末、白粉は白粉の実という木の実由来のものだと判明して安心した。
白粉の実、実物まで持って来られて確認済。

巣守隆康の言うには、鉛成分の白粉も存在しているらしいが、それはあまりにも高価で限られた人しか使っていないらしい。

そんなこんなで馬鹿殿化粧を施され、打掛みたいな装束を着せられ。
油で髪を姫っぽくガチガチに固められ付け毛を付けられた私は、どっからどう見ても立派なお姫様――じゃなくてオカメそのものだった。

「あなや、てのほかくもきよらになられたるるや。」

巣守隆康は私の顔を凝視して絶句する。

ああん?清らかだって?

確かに自分は「綾子ちゃん無表情で怒ると能面みたいで怖い」とか「綾子ちゃんは平安時代とかに生まれていれば美人なのにね(pgr)」とか散々言われて育ってきたさ。

年頃になっておしゃれ頑張って、やっと「常●貴子に似てるね」なんて言われ始めたと思ってたのに…。
それなのにこの頭イかれてるオカメ化粧、私が似合ってるって本気でそう思ってんのかよ。
思ってるんだな?よーし表へ出ろ。

……ううう、褒められてる筈なのにちっとも嬉しくないっ!!!
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「長き道のさぞ行き疲れさせ給うなり。やがて湯の整いはべりたれば、づは御足おみあしを。」
→「長い道中さぞやお疲れでしょう。もうすぐ湯が沸きますので、まずはおみ足を(洗い申し上げましょう)。」

「さ、こなたに」
→「さあ、こちらに」

「しばしここにおはしまし給え。」
→「しばらくここにいらっしゃって下さい。」

「姫御前、姫御前」
→「姫様、姫様」

おどろかせたもうたりや。これより御身の化粧けそうさせたまわらんとぞんじてこしたてまつりたりけるに。」
→「驚かせてしまいましたか。これより化粧をさせていただきとう存じまして起こし申し上げたのですが。」

「さ、姫御前」
→「さあ、姫様」

男手おとこでそなえらるるか」
→「漢字をたしなまれているのか」

「あなや、てのほかくもきよらになられたるるや。」
→「なんと、予想外にこれほどまでにも美しくなられるとは。」

それは、大きな槍を持った鋭い目付きの若い男性だった。

なんと、馬鹿殿メイクをしていない、自然のままの顔である。
日に焼けて目が大きくて、何かインド人を彷彿とさせる顔立ちだ。
身長は、180㎝ぐらいだろうか?巣守隆康を基準とすればかなり背が高いと思う。
しかも、訓練中だったのかはだけられている上半身の筋肉の付きも良くガタイが良い。
シックスパックに割れてるし、うんうん、眼福眼福。

やってくるなりその人は地に膝をついて畏まった。

殿との、よく返りたまいき。くさの立ち返りて申すに、御身おんみ単騎たんきにてまよたまいしと。聞きたるにやつがれが肝の潰るるかとぞ思いたりける。」

「あな、立て。我は大事だいじなし。て、他の郎党らうどうどもはかえたりけるや。」

いないまだ。殿とのはりてやつがれててさいを取りたるとぞ。使いを遣わせん。」

「命生きて安穏あんをんにあらなん。」

そんな二人の遣り取りを百合をいじりながら聞いていると、

「そなたの尼御前を具せられたるは如何におわしますや。」

最初から気になっていたのか、こちらに注目がやってきた。油断なくジロジロ見て来る。
まあ戦やってるみたいだし、見慣れない怪しい人が居たら警戒するよね。
巣守隆康が「や、とどめよ。」と制止しても構わず、更に槍を持ったまま至近距離まで迫って来ると、眉間に皺を寄せ目をギョロッと見開いた、厳めしい顔で威圧してくる。

もしかして邪な視線で気づかれたのだろうか?
近づかれても正直威圧顔よりも筋肉が気になるのですが。
しかしその顔と体つき……金剛力士像みたいで笑える。

警戒されてるんだなーと思いながらとりあえず視線を合わせて微笑んで誤魔化す様に会釈をすると、力士像に何故か驚かれた。
そのまま私の胸元を見るや否や、「――や、桐の」と、一瞬にしてぱっと下がり土下座体勢を取ったので、今度はこっちが驚いた。
巣守隆康にでさえ膝をついただけだったのに、である。

「やんごとなきすじ御方おんかたと知らず御無礼ごぶれいつかまつりたる事、ひらに許したまわらん。やつがれ巣守すもり家が家来けらい鳥山半兵衛とりやまはんべえと申す。」

「私は…」

「こなたは朽木綾子とおおたまう。」

言いかけると巣守隆康に肩をぎゅっと掴まれた。
私に口を開かせず、巣守隆康は延々と説明をする。

「おまんを呼び衣・化粧けしょうなど仕立てて、ねんごろに心尽こころつくしてかしづきたてまつれ。詳しきはのちにかたりせん。」

「さてもさても、さいわいなりけりや。お萬の君なれば、言うべきにもあらず…」

「…しかなり。疲れたりけるに、湯殿ゆどまうけよ。さては夕餉ゆうげにこれをつくれ。」

言って、巣守隆康は鴇を渡す。
うやうやしくそれを受け取った鳥山半兵衛は「かしこまり申す」と言って大急ぎで元来た道を駆け出して行った。


***


巣守隆康は城だと言ったが、実際にはそこは城というか警備の厳重なデカくてだだっ広い屋敷群と言う方が正確だった。
二階建ては無く、高い建物は櫓ぐらいで全部平屋である。
姫路城みたいなのを想像してたのに、肩透かしを食らった感じ。

その中でも一際大きな屋敷にやってくると、馬を降ろされる。
そこには着物の上から襞巻スカートを来たような恰好の女性が何人か居た。

巣守隆康はその内の一人にこまごまと何か言いつけると、頷いてこちらを見る。
彼女はそのまま寄って来ると、頭を下げてきた。

「お初にまみたてまつる。姫御前、おのれは萬と申す者。姫御前にかしづきさせ給えば。」

お萬は言って、二ーッと不気味に笑う……その真っ黒な歯で。
白粉顔、剃られた眉、額に描かれた磨眉、赤い口紅。
そう、女性は全員馬鹿殿メイクであったのだ!

彼女は安心させるように笑ったのだろうが、私は不安を隠しきれなかった。
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殿との、よく返りたまいき。くさの立ち返りて申すに、御身おんみ単騎たんきにてまよたまいしと。聞きたるにやつがれが肝の潰るるかとぞ思いたりける。」
→「殿、よくぞ戻られました。忍びの者よりの報告で一人はぐれられたと聞き、それがしは肝が潰れるかと思いましたぞ。」

「あな、立て。我は大事だいじなし。て、他の郎党らうどうどもはかえたりけるや。」
→「まあ、立て。私は大丈夫だ。それよりも他の者どもは戻って来ておるか。」

いないまだ。殿とのはりてやつがれててさいを取りたるとぞ。使いを遣わせん。」
→「いえ、まだ(戻っておりません)。若殿の代わりに我が父が率いているという事です。(戻るように)使いの者をやりましょう。」

「命生きて安穏あんをんにあらなん。」
→「生き永らえて無事であればいいのだが」

「そなたの尼御前を具せられたるは如何におわしますや。」
→「そちらの尼さんを連れていらっしゃるのはどういう訳でございますか。」

「や、とどめよ。」
→「これ、やめろ。」

「やんごとなきすじ御方おんかたと知らず御無礼ごぶれいつかまつりたる事、ひらに許したまわらん。やつがれ巣守すもり家が家来けらい鳥山半兵衛とりやまはんべえと申す。」
→「高貴な血筋の御方に大変失礼申し上げましたこと、何卒お許しいただきたい。私は巣守家の家来、鳥山半兵衛と申します。」

「こなたは朽木綾子とおおたもう。」
→「こちらは朽木綾子とおっしゃられる。」

「おまんを呼び衣・化粧けしょうなど仕立てて、ねんごろに心尽こころつくしてかしづきたてまつれ。詳しきはのちにかたりせん。」
→「お萬を侍女につけ衣服・化粧などをきちんとした格好をさせ、丁重にもてなせ。詳しくは後程話そう。」

「さてもさても、さいわいなりけりや。お萬の君なれば、言うべきにもあらず…」
→「なんとまあ、僥倖でしたな。お萬殿を、となれば、言うまでもなく…」

「…しかなり。疲れたりけるに、湯殿ゆどまうけよ。さては夕餉ゆうげにこれをつくれ。」
「…そういう事だ。疲れているので、風呂を沸かせ。そして夕餉はこれを料理しろ。」

かしこまり申す」
→「かしこまりました」

「お初にまみたてまつる。姫御前、おのれは萬と申す者。姫御前にかしづきさせ給えば。」
→「初めてお目通り致します。姫君、私は萬と申します。姫君のお世話をさせて頂きますので。」

お馬でひたすらぽっくりこ。

爺さん婆さんの集落はとうに彼方へ過ぎている。
お昼は少し遅かったものの、川沿いにある民家で漁師らしきおっさんと交渉し、川魚の塩焼きと団子汁みたいなものを食べた。
団子汁は兎も角、川魚の塩焼きはとても美味しかった。
川の水も底が見える程透明で綺麗。

「あ、ユリが咲いてる。」

山百合やまゆりこころきしか。」

珍しがっていると、巣守隆康がナイフで一輪いちりん切り取った。
わざわざ小さな竹を切って川の水を入れ、そこに活けて手渡してくれる。
日本の昔と同じなら、たぶん男尊女卑の社会なんだろうけれど、彼は珍しく紳士的で優しい人なんだろう。
うっかりときめいちゃったじゃん。

昨日の今日の付き合いだけど、このままこの人に着いて行って大丈夫そう、かな。

そんな事を思いつつも馬は進み、長閑な茅葺の家々が点在する田園地帯に差し掛かる。
不揃いに植えられた稲が青々としていた。

そんな綺麗な景色にも関わらず巣守隆康は

寝足ねたらぬ…。」

と、あくび交じりにぼやいていた。
早起きしてたけど、なんだやっぱり寝不足なんじゃん。
まあお腹一杯になったら眠くなるのもあるだろうね。私もちょっと眠い。

二人して睡魔と戦っていると、不意に、グァー、カッカという鳴き声が聞こえてきくる。
カエルかな、と思いながら何気なくそちらを向くと。
目に飛び込んできた生き物に、一気に眠気が吹っ飛んであっと声を上げた。

あれは。

トキ!?トキだよね、あれ!すごーい!すごーい!!」

そこに居たのは、学名ニッポニアニッポン――日本では絶滅したとされるトキだった。
小さな群れで十数羽程、田んぼの中や畦道あぜみちに居る。
うわーうわーと口を開けてトキを指差しはしゃぐ私。

ツキにあらずや。目慣れし鳥にて珍しからず。こなたよりは城の近ければ射て鵇汁ツキジルにせん。」

しかし奴は弓取り矢を番えトキを射てくれやがった。
仲間の突然の死にパニックになって叫びながら飛び立つ鴇達。
止める間すら無い、しかも一発命中である。

食うのかよ。
つーか、私のこれまでの感動を返しやがれ馬鹿殿。


***


それから。

射たえものを引っ提げて巣守隆康は馬を少し急がせているようだった。

田畑の中を進み、橋を渡り。
人の往来が増えてきて、町らしき場所を過ぎ、山道に入る。
そこでやっとスピードダウンした。

ゆっくりゆっくりポニーに乗って山を登っていくと、やがて物見櫓やのぼりみたいなものが見えだす。
それほど高くはない山の、頂の方に行くほど木々が減っているようで、視界が開けてきた。
幾重にも張り巡らされた柵や垣根、立派な建物が見える。

「あれは…」

「御許、あなたに見ゆるは我が巣守の弥栄城いやさかじょうそうらう。」

と、向こうから誰かが駆けてくるのが見えた。


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山百合やまゆりこころきしか。」
→「山百合が気に入ったのか。」

寝足ねたらぬ…。」
→「寝足りない…。」

ツキにあらずや。目慣れし鳥にて珍しからず。こなたよりは城の近ければ射て鵇汁ツキジルにせん。」
→「トキではないか。見慣れた鳥で珍しくない。ここからは城が近いから弓で射て(持って帰って)鴇汁トキジルにし(て食べ)よう。」

「御許、あなたに見ゆるは我が巣守の弥栄城いやさかじょうそうらう。」
→「ご婦人、あちらに見えるのは我が巣守の(支配する)弥栄城いやさかじょうです。」